12 HACCP GUIDE

HACCP完全ガイド:キッチンカーの衛生管理計画をゼロから

「HACCPって結局何をすればいいの?」という方向けに、制度の背景から手引書の入手方法、 メニュー別の記入例、保健所の実地確認で見られるポイントまで、一つのページにまとめました。

HACCPとは何か、なぜ義務化されたか

HACCP(ハサップ、Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食品を扱う工程ごとに 「どこで衛生上の危害が起こりやすいか」を分析し、重要な工程を継続的に管理・記録する 衛生管理の考え方です。できあがった食品を抜き取り検査するのではなく、 工程そのものを管理して事故を未然に防ぐという発想が特徴です。

食品衛生法の改正により、令和3年6月1日(2021年6月1日)から、 原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。 キッチンカー・移動販売もこの「すべての食品等事業者」に含まれ、例外ではありません。 制度の一次情報は 厚生労働省のHACCP関連ページ で公開されています。

「HACCPに基づく衛生管理」と「考え方を取り入れた衛生管理」の違い

HACCPへの対応は、事業者の規模によって2段階に分かれています。

HACCPに基づく衛生管理——大規模な食品工場や、と畜場等を持つ事業者向け。 国際基準(コーデックスHACCP)に沿った本格的な危害分析と手順書の作成が求められます。
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理——小規模事業者向けの簡易版。 キッチンカー・小規模な一般飲食店はこちらに該当します。難しい分析を一からやるのではなく、 業界団体が作成した手引書に沿ってチェック表を埋めていく形で対応できます。

「難しそう」で止まってしまう方が多いポイントですが、実態は手引書に沿った チェック表の記入です。次の見出しで実際の入手方法を説明します。

何から始めればいいか:手引書の入手方法

最も確実で安価な進め方は、保健所の窓口で「食品衛生管理ノート」を入手することです。 多くの自治体で数百円程度で配布されており、書き方の説明も添えられています。

キッチンカー・移動販売専用の手引書は用意されていません。厚生労働省が公表している 業種別手引書のうち、「小規模な一般飲食店事業者向け」の手引書を使うのが 一般的です。オンラインで確認したい場合は、 厚生労働省の業種別手引書一覧ページ から「小規模な一般飲食店」の詳細版・概要版をダウンロードできます。

記載する内容は大きく2つです。

重要管理点は、扱うメニューの調理工程によって内容が変わります。代表的な3パターンを紹介します。 より詳しい唐揚げ弁当の記入例はリスク管理ガイドの記入例で 表形式にまとめています。

① 揚げ物・焼き物(唐揚げ、焼き鳥等)——加熱管理が中心

重要管理点は「中心部まで確実に加熱されているか」です。揚げ色・火の強さ・加熱時間で 判断し、盛り付け後は高温のまま密閉せず、粗熱を取ってから提供します。

② ドリンク・かき氷(かき氷、タピオカドリンク等)——器具の洗浄・原水管理が中心

加熱工程がないため、重要管理点は加熱ではなく使用する氷・水の管理器具の洗浄・消毒に置き換わります。氷は必ず飲用適の製氷から作られたものを使い、 シロップ用ボトルや抽出器具は使用のたびに洗浄・すすぎを行います。

③ スイーツ・クレープ等(非加熱の仕上げ工程がある)——放熱後の二次汚染防止が中心

生地は加熱調理する一方、トッピングのクリーム・フルーツ等は非加熱で扱うことが多いため、 加熱後の器具と非加熱食材が触れる工程を重要管理点として意識します。 クリームは提供直前まで冷蔵し、常温放置の時間を記録・管理します。

※ 上記は一般的な考え方の例です。実際の記入内容は、必ずご自身のメニュー・調理工程に 即して作成し、管轄保健所の確認を受けてください。

保健所の実地確認でよく指摘される点

営業許可の申請・更新時には、施設の図面確認に加えて実地確認が行われます。 HACCP関連でよく指摘されるのは次の点です。

指摘されがちな点具体例
記録と実態の乖離チェック表の記録日と実際の営業日が合っていない、毎日同じ数値が並んでいる等、形だけ埋めている記録は指摘対象になりやすい
温度計の未設置・故障冷蔵庫に温度計がない、あっても壊れている場合は温度管理そのものが確認できないと判断される
手引書とメニューの不一致実際に提供しているメニューに合わせて重要管理点を見直していない(メニュー追加時の更新漏れ)

罰則はあるか

HACCP未対応そのものに対する直接的な罰則規定はありません。ただし、実務上のリスクは 別のところにあります。営業許可の新規取得・更新の際にHACCP対応状況が確認され、 対応が不十分な場合は許可自体が下りないことが実質的なリスクです。

また、食中毒等の事故が発生し、衛生管理体制に不備があったと判断された場合は、 食品衛生法違反として個人は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人は1億円以下の 罰金という重い処分の対象になり得ます。「HACCPを守っていないと即座に罰金」ではなく、 「事故が起きたときの管理責任を問われる根拠になる」と捉えるのが実態に近い理解です。

続けるコツ:現場のリアルと乖離させない

HACCPで最も大切なのは、一度立派な計画書を作ることではなく、日々の記録が実際の 作業内容と一致し続けることです。今日の冷蔵庫温度や加熱確認の記録が実態と 合っているか、メニューを変えた際に重要管理点を更新できているか、定期的に見直しましょう。 この誠実な積み重ねは、出店審査や融資審査でも評価される資産になります (事業計画とHACCPの関係はこちら)。